「次に来るメディアは何か??」

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何時頃だろうか、「作家」になり始めた私は近しい編集者の方々から新作の書籍を頂くようになった。経営者の傍ら「作家」を続ける私なんぞに献本頂くのだから、必ず目を通せねばと思い、基本的に頂いた本は熟読させて頂いている。
先日もそうであった。六本木ヒルズ・ライブラリーにて初めて講演会を開催した際、全く無名の外交官であった私に「作家」として道を切り拓いて下さった恩人で筑摩書房の有名編集者・湯原法史氏が開演前、楽屋までわざわざ来訪下さった。そして一言、「先日話していた本、出来ましたので差し上げようと思いまして」とのこと。頂いたのは河内孝氏が書かれた最新刊「次に来るメディアは何か」であった。
河内孝氏は1944年生まれ。毎日新聞で社長室長、常務取締役(営業・総合メディア担当)を歴任された後、2006年に退任された。以前より気になっていたのだが、以前上された以前上梓された著作「新聞社-破綻したビジネスモデル」(新潮新書)がどちらかというと、“出口の無い議論(=すなわち、新聞社が経営破たんするとして、「ではどうするのか?」について議論が薄いという意味で)” を羅列した書籍であるとの印象を個人的には受けていたため、少々遠ざかっていた。 それが恩人・湯原法史氏がわざわざコンタクトし、書籍を作ろうとしているのだと以前聞いた。「これは何か面白いことになるぞ」 と直感した次第である。 率直に申し上げよう。―――この本は読むべき本である。なぜなら、かつて毎日新聞という大新聞の経営幹部であった経験に基づきつつも、かなり“クールな視線”でこれからの日本のメディア像を大胆に描いているからである。例えば次のような具合にだ(215-216)。
「私は新聞界の変動は 2010 年に、テレビ界の再編は12 年に起きるとみている。では、その時、メディア業界はどのような図式に再編成されるのだろう。以下は、私の独断と偏見に基づく「再編図」だ。
(1)日本のメディア界は、四大メディアと二つのユニークな独立グループによる六グル ープに集約されていくだろう。
(2)四大メジャーとは、NHK、フジ・メディア・ホールディングス、読売新聞・日本テレビグループ、朝日新聞・テレビ朝日グループである。
(3)独自のメディア・グループが二つ生まれ る。経済情報の総合化を目指す日本経済新聞グループと、まったく毛色が異なるが、 ジャニーズ事務所、エイベックス、吉本興 業連合などによるコンテンツ制作と番組販売のメディア・グループ「JAY」である。
(4)通信キャリアーとの組み合わせは、 KDDI が朝日グループに、ドコモはフジ・ メディア・ホールディングスに、ソフトバンクは読売グループに一体化する可能性が高い。

この場合、「ヤフー・ジャパン」は報道各社からニュース・コンテンツを購入しているから、いずれのグループにも参加しないかもしれない。逆に親会社のソフトバンクと一緒になって、共同通信社との合併に動く可能性も出てくる」
上述の前著(「新聞社-破綻したビジネス モデル」)の際の論考よりも確実に進歩した言論を展開されているので非常に印象深かった。しかも前著ではどちらかというと新聞セクターにだけフォーカスしていたのが、より広範囲に「日本のメディアが抱える将来図」を何とか描き出そうと尽力されている点が非常に興味深い。なぜ日本のメディアが今後、激変を迎えるのかという点に関して基本的な論点を網羅的におさえておきたい熱心な読者にとってはうってつけの好著であろう。

ただし、だからといって手放しで通読すれば良いというわけではない。メディアの片隅に「作家」として生きている者(これでも一応、“電波(=業界用語で“波系”)” には顔も出している)としてあえてコメン トを付するなら、次のように言うことが出来るだろう。
①いわゆるソーシャル・メディアに対する評価が本著では非常に低いが、本当にそうだろうか。著者はプロのジャーナリストである「記者」が書いている記事は、 ソーシャル・メディアにて「つぶや」かれたり、あるいは「落書き」されたものよりも正しく、意味があるという大前提に立っている。しかし、果たしてそうであろうか。 ②特に日本のソーシャル・メディアは、既存のマスメディアの二度轍を踏まぬよう、 「コンテンツ制作」と「コンテンツ配信」、 そして「通信インフラ管理」の 3 本柱を同時並行で維持するというビジネス・モデルをあらかじめ放棄している。いや、もっと正確に言えば前 2 者の中間を狙っているというのが正確なところであり、コンテンツを書き込むのは利用者であり、 そのための「場」をいかに心地よく提供するかに腐心しているというべきだろう。この辺の最新状況を著者はフォローして いない(あるいは軽視している)
③あるべきマスメディアの将来像として米国の現状ばかりが取り上げられているが、 とりわけ欧州大陸における展開は全くそれと異なることが示されていない。その結果、例えばドイツの様に公営放送局をむしろ2局併存させるといったオプションは一瞥だにされていない。果たしてそれで議論は尽くしたといえるのだろうか。
何はともあれ、これから動くのは間違いなく日本のマスメディアだ。“潮目”が見えてから慌てて悩んだり、動かぬよう「先行投資」をしておくならば適当な一冊であることには間違いない。我が編集者・湯原法史は今年3月で定年退職であると聞く。そうであるにもかかわらず、あらためて論争的な本を刊行された同氏のパワーと見立てにあらためて敬服している次第である。